五感で走った北海道(その9)

斜里町のクリオネキャンプ場を7時30分に出発した。農地の向こうに斜里岳を望みながら知床半島の北側の海岸線を進む。海岸線をなぞるように国道334号を走ると、オホーツク海の感触が鼻腔に気持ち良い。海からの匂いだが、漁村の匂いと違って透明感を感じる匂いだ。半島の中程まで来たところで知床半島を横断する山岳道路に入る。半島の北側の海岸と南側の海岸をつなぐ知床横断道路だ。快晴に恵まれ、峠の展望台からは、羅臼岳と海を隔てて国後島の山並みが見えた。

名峰「斜里岳」昨日会った隣のテントの男性は、前日に山頂に登ったという。

 知床半島の北側を走る国道334号。

知床半島には多くの滝があって、その1つオシンコシンの滝

知床横断道路の最高地点となる知床峠

知床半島の最高峰 羅臼岳

知床峠から見た北方領土の1つ国後島
 峠を下ると海岸沿いの町、羅臼町に入る。ここは漁港でもあり、海産物などの土産店は観光客で賑わっている。漁港や集落がほとんど無い半島の北側と南側では様相が大きく違う。海岸沿いを走ると海の匂いも違って感じる。羅臼町は漁港の匂いがした。その羅臼町から1時間ほど走って半島のつけ根にあたる標津町に入った。今回のツーリングでは、函館からここ標津町まで北海道の海岸線を約半分走って来たが、ここからは海から離れて内陸部に入ることにした。標津から中標津に入ったのは正午を過ぎた頃、気温は30度を超えていた。たまらず生協マーケットのベンチでアイスクリームを食べた。同じベンチに座ってタバコを吸っていた生協の店員に、夏はいつもこんなに暑いのかと聞いた。3、4年前にも暑かった年があったが、それ以来だと言っていた。中標津から次に向かったのは開陽台。小高い山から360度の地平線が見えるというツーリストのお薦めポイント。その途中、牧草地や森林の中をどこまでも続く直線道路を通る。時折、大型トラックや大型バイクが追い越していく。カブは泰然自若。時速60キロで余裕あるエンジン音で快調に走った。

 開陽台へ向かう道

開陽台からは360度にわたって地平線が見渡せる
 中標津から西に向かって、弟子屈町、阿寒湖に入る。今日は3連休の初日とあって、阿寒湖は観光バスやマイカーで混んでいる。一目、阿寒湖を見ようと、土産物店の並ぶメインストリートを避けて、ひっそりとした原生林の中の散歩コースを湖畔まで歩いた。水面は午後の日差しを受けてキラキラと輝いていた。時刻は午後3時を過ぎた。今日のキャンプ地を決めなければならない。阿寒湖は周囲を山々に囲まれた標高420メートルにあるが、そこから国道241号を下った最初の町が足寄町だ。ツーリングマップを見ると里見ヶ丘公園にキャンプ場のマークがある。阿寒湖からは約60キロ、1時間余りで行ける足寄町を今日のキャンプ地に決めた。

賑やかさを避けて原生林の中から阿寒湖を望む
道の両側の森林がやがて農地に変わり、家並みが多くなって商店や事業所などが増えてきたところで足寄町に着いた。人口7000人の町。松山千春の生まれ故郷。繁華街の薬局の前で歩道を掃除していた男性がいたので、里見ヶ丘公園の場所を聞くと、3キロメートルぐらい先までの道順を教えてもらった。公園は大きく、野球場や文化施設も併設していた。キャンプ場というより、キャンプも可能な総合公園と言った感じだった。林のそばの芝生にテントを張った時は午後5時、夕食には十分に時間はある。

足寄町の里見ヶ丘公園(グーグルマップから)

 里見ヶ丘公園の一角にテントを設営
マップを見ると足寄温泉が近くにあるらしい。どんな所かと出かけて見た。カブで10分ほどで着いたが、ここか⁉︎ と思った。簡素な平屋の正面に引戸が2つあって、男・女と大きく書いてある。ほとんど地元の人だけが利用するような、よそ者には敷居が高そうな雰囲気がある。私は、そんな所にワクワク、ドキドキ感で入るのが好きだ。駐車場には車が1、2台だけ。アルミの引戸を開けて入ると、鍵のない下駄箱があって、その先に番台がある。自動販売機で350円の入浴券を買って番台の女性に渡した。年齢はどう見ても70代後半だろうが、黒いレースの服か下着か判別し難いものを着ている。真夏だからだろうが‥ついつい目線がいってしまう。脱衣場には入浴を終えて涼んでいる男性が一人いる。はて? ウエストポーチを入れるロッカーや貴重品入れが無い。番台の女性に尋ねると、「そこに置いていいよ」と番台の片隅を目線で教えた。財布やカードが入ったウエストポーチなので一瞬躊躇した。でも、しょうがないので「お願いします!」と思いを込めて、少々声高に言った。期待していなかったが預かり証もなかった。タオル一枚を持ち、引戸を開けて浴室に入った。おや! 意外と広い。外観からは想像できない浴槽と洗い場の大きさだ。30人ぐらいは入れそうだ。今は2人だけしか入っていない。2人とも洗い場で体を洗っている。大きな浴槽に私一人だけ入った。湯加減もちょうど良い。源泉掛け流しの天然温泉。ふと、洗い場を見ると2人のうちの1人は、背中に彫り物をしていた。両側の肩甲骨から腕にかけて何かの花らしい彫り物。いまどき珍しい。温泉地や公衆浴場では刺青のある方の入浴を禁ずる貼紙を見かけるが、この浴場にはなかった。男性は6、70代と思われ、2人連れで来ていた。風呂から上がって脱衣場で2人を拝見したが、2人ともその道の人のようなオーラは全く無い。仕事帰りに一風呂浴びたお父さんと言った感じだ。私から何か言葉をかけたくなった。「いい彫り物ですね」だめだ。若気の至りで今は、好きな温泉巡りができないと後悔しているかもしれない。「いい風呂ですね」が無難かもしれないなどと迷っているうちに、2人はアルトに乗って帰ってしまった。できれば刺青のことを聞きたかった私は修行の足りなさを感じた。そして、番台からウエストポーチを問題なく受け取って、テントに戻った。

足寄温泉(民営の公衆浴場)

 足寄温泉では「おや⁉︎」「おや⁉︎」「おや⁉︎」の連発
その夜、コンビニで調達した夕食をテントの中で食べた後、寝袋に入った。それは、真夜中の1時か2時頃だった。眠りが浅かった私は、テントの外で風を切るような音がしたのに気付いた。また、テントの表面を何かが滑るような音の様でもあった。風だろうか? テントのファスナーを開けて外を見ると、風は無いようだが、フライシートの下に置いていたテント収納袋が4、5メートル先に飛んでいた。やはり風だろうか。それを取って来て再び眠りについた。その深夜の出来事が何だったか気づき、唖然としたのは翌朝だった。
本日の走行、301キロメートル

 この続きは(その10)で‥
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