今年の長距離ツーリングは北海道に決めた。ほんの1ヶ月前までは、山陰地方から九州に足を延ばす予定でいたが、その頃の九州や西日本は集中豪雨などの災害が頻発していたので計画を変更し、7月が良いという北海道を選んだ。北海道には、二十歳代に函館までバイクで行ったこと、また、自転車で帯広市周辺に行ったことがあるが、いずれも1週間程度のツーリングだったが、今回は、2週間ほどで北海道を一周する予定を立てた。
私は、ツーリングにあたってテーマを持つことにしている。「○○をする」「〇〇について調べる」と言った仰々しいものでない。「〇〇はどんなだろう?」「○○が見られるだろうか?」のような漠然としたものだ。一方では、気ままに、真っ白い画用紙のような気持ちで、行く先々の出会いを楽しむこともツーリングの醍醐味であるが、そこにテーマを持つことで、さらに周囲を見るアンテナの感度が高まるような気がする。そこで今回、北海道をぐるっと回る中で何を探すか考えた結果、これぞというテーマが見つからない。それで、視覚、聴覚など自分の五感を使って写欲をそそる光景と出会ったら、今回新たに買ったデジカメに五感で感じたものを記録しようという思いで、テーマを「五感で走る北海道」にした。この旅で出会うのはどんな風景や空気感だろうか。そして何を感じるだろうか。

今回のツーリングのために買ったペンタックスQS1 標準スーム、望遠ズーム、魚眼レンズが全部片手に載る小ささ。価格も五本の指で買える。
(第1日目、自宅〜能代市)
平成29年7月9日午前9時、スーパーカブ110プロに78ℓのボックスを載せ山形県上山市の自宅を出発する。まずは秋田県を目指し国道13号線をひたすら北上する。天気は快晴だ。屋外で仕事をする人には厳しい暑さだが、バイクで遠くの山並みを眺めながら走るには、心地よい走りができる青空だ。正午前には新庄市にから国道47号線に入る。最上川に沿ってしばらく走ると、川岸に二本ののぼり旗が立っており、その前で10数名が川面に向かって整列し手を合わせている。中央には神主らしい方もいる。対岸の緑深い山、その前を薄い緑をキラキラ反射しながら流れる最上川、赤い鳥居と垂直に立つ白いのぼり旗二本、何かを祈る人の列、なんとも絵になる光景が見えた。通り過ぎたが思い直してUターンし、カメラを取り出す。いざ撮ろうとした時にきは、整列した人はすでに帰り始めていた。「うーん。シャッターチャンスを逃してしまった。
最上川沿いで出会った光景。ご神体は川向こうにあるのか、川そのものなのか‥
バイクに乗っていると写欲をそそる光景に出会う。でも多くの場合そのまま通り過ぎてしまう。調子よく走っている時にバイクを止め、カメラを取り出すことが面倒になってしまうからだ。でも、通り過ぎるとほとんどの場合後悔してしまう。今の場面には二度と出会わないという思いが、胸焼けのように残ってしまうのだ。今回の旅では、ちょっとした光景でも心に引っかかるものがあればとにかくバイクを止めて撮ろう、スーパーカブの身軽さを生かそうと心に決めた。
やがて川下りの観光船が見えてきた。舟下りコースになっている戸沢村古口から草薙までの12㎞は最上峡と呼ばれ、川の両側は急峻な山が迫り、春の新緑から紅葉、雪景色と一年を通じて景色が堪能できる。国道は最上川に沿ってカーブが続く。やがて対岸の白糸の滝が見えてくると、舟下りの終点にもなっている数件の旅館がある草薙温泉である。最上峡を抜けると庄内町に入る。庄内町は米どころ庄内平野の東の端に位置し、山形県内では数が少ない風力発電の大型風車が町おこしのシンボルになっている町である。稲穂は風にそよいでいるが、風車は回っていないように見える。庄内町で最上川にかかる橋を渡り、旧松山町に入る。酒田の市街地を避けて北進する。旧八幡町に入った時はすでに午後1時を過ぎていたので、交差点近くの入りやすいコンビニに寄り菓子パンを買い駐車場の日陰を見つけてほおばる。郊外にもかかわらず立地場所が良いのだろう、車やバイクが次々と入ってくる。その中で、長期間のツーリングを思わせる銀マットや寝袋をくくり付けたスーパーカブは目立っている。いや、自分だけがそう思っているだけかもしれない、多分そうだろう。また、人目を気にしていることが、初日の気負いが抜けきっていないからだろうか。腹もさほど空いていないのもそのためだろうか、形ばかりの昼食を済ませて出発する。遊佐町で国道7号に合流し日本海沿いを北進する。右側には緑一面の水田の向こうに鳥海山がそびえ立っている。山頂部分だけ白い雲がかかっていることでも夏の暑さが感じられる。

遊佐町付近から望む鳥海山。出羽富士と呼ばれる名峰
程なく秋田県に入った。由利本荘市から秋田市にかけて、海岸線の小高い丘には風力発電の風車を数多く見かけた。私が住む山形県の内陸部では見かけないので、どうしても目で追ってしまう。秋田市内で午後3時を過ぎたので、今日のキャンプ地を決めなければならない。海岸に近い公園に目星をつけ地図で探したところ、能代市の米代川の火口近くにある公園にいって見ることにした。そして、テント設営や食料調達を考えると調度良い午後5時30分に公園に着いた。そこは、少々伸びた芝生で、近くにトイレもある。何より目立つのは、風力発電の巨大な風車である。羽根の直径が82メートル、地上から羽根の先端まで119メートルもある。普通は、風車の周りは立ち入り禁止なのだろうが、ここは公園内のためだろうか、柱(ハブ)に触れることもできる。柱の根元で真上を見上げると羽根(ブレード)がゴーッという風を切る音をたてて回る様は、ちょっと怖いほどである。テントはそこから約50メートル離れた芝生に張ることにした。ほとんど風車の直下と言ってよい。このようなシュールな場所を寝床に、果たしてどんな夢を見ることになるのか。

初日のキャンプは能代市内の公園。

キャンプした公園のグーグルマップ。公園の中に巨大風力発電があることに驚いた
さて、能代市から青森フェリー埠頭までは、150㎞、半日で行ける距離だ。明日の午後にはフェリーに乗れる。ネットで乗船予約をしようとしたところ、「ネットでの予約は出港の2日前までです」えっ、明日の予約はできないのか⁉︎ 津軽海峡を前にして丸一日どうすればよいのだろう。うーん。考えてもしょうがない。とにかく、明日、フェリーの乗船窓口に行ってみる他ない。そんな一抹の不安を抱いて寝袋に入った。
(その2)に続く
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